ニュースの概要

米国のアイウェアブランドDIFF Eyewearが、サウスカロライナ州チャールストンに初の単独店舗を10月10日に開業した。店では眼鏡の販売だけでなく、視力検査、アート展示、限定コラボ商品の販売といった体験を用意する。同社は今後3年でさらに30店舗を出す計画で、2027年春にはフロリダ州タンパ地域にも進出する予定だ。これまではネット通販を軸に、百貨店や専門店、ファッションブティックなどの取引先も組み合わせてきたが、自前の店舗を加えることで、オンラインと実店舗を行き来する顧客を直接つかむ事業へと舵を切る。デジタル発の会社が実店舗に投資する動きとして、眼鏡業界では象徴的な転換点といえる。

引用元: DIFF Eyewear、デジタル発ブランドから実店舗を含むオムニチャネル企業へ転換(FashionNetwork)

分析・見解

ネット発ブランドが店舗を持つ理由は、集客費の高止まりにある

デジタル発のブランドが実店舗を出す流れは、眼鏡に限った話ではない。Warby Parkerは2010年にネット販売で創業し、2013年に最初の店舗を開いた。その後は店舗網を広げ、今では売上の大きな部分を店舗が占める。背景には広告費の高止まりがある。SNS広告の単価が上がり、新規客を一人集めるコストは年々重くなった。一度来店した客が何度も買ってくれる場を自前で持つほうが、長い目で見て得になる。

米国では眼鏡大手のEssilorLuxotticaが製造から小売まで広く握っており、独立系ブランドが価格と見せ方を自分で決めるには、自前の売り場が欠かせない。

眼鏡は試着と検査が要るので、店で売る価値が大きい

眼鏡は服と違い、顔に合うかどうかが買う決め手になる。瞳孔間距離(=左右の瞳の中心の間隔)やフレームの傾きなど、実際に測らないと決まらない項目も多い。ネットで使える試着アプリや自宅試着サービスもあるが、返品や交換の手間は残る。視力検査を店内に置けば、検査から注文までが一度で終わる。DIFFが店で検査を出すのは、この手間を減らすためだと読める。筆者の見立てでは、この検査の囲い込みが店舗の収益を支える土台になる。眼鏡は検査の結果がなければ作れず、再検査や調整で来店の回数も増えるからだ。

ただし、検査には資格を持つ検眼士が必要で、規制も州ごとに違う。単なる雑貨店と違い、人の確保と法令対応という重い運営が加わる。

アート展示やコラボは、来店の理由をつくる仕掛けである

眼鏡は買い替えの周期が長く、用がなければ店に行かない商品だ。そこでアート展示や限定コラボを置き、「見に行く理由」を足している。物を売る場所から、世界観に触れる場所へと役割を変える発想だ。ファッション業界の旗艦店と同じ考え方で、写真や口コミとして広がる効果も狙える。店舗は売る場所であると同時に、通りを歩く人の目に触れる看板として広告の代わりも務める。コラボ商品は数量が限られるため、値引きに頼らず売りやすい点も利点だ。

30店舗計画の裏にある、卸と直営を両立させる難しさ

もう一つ見逃せないのは、百貨店や専門店などの取引先を持ったまま直営店を出す点だ。直営店が人気になるほど、近くの取引先と客を奪い合う恐れがある。価格や品ぞろえをそろえるのか、直営だけの限定品で分けるのか。この線引きがぶれると、取引先の信頼を失う。3年で30店舗というペースは、取引先と重ならない都市から選べば進められるが、後半ほど調整は難しくなるだろう。

ビジネスへの影響

小売側が今すぐ点検したい、在庫と人員の持ち方

眼鏡店の運営者にとって、今回の動きは競争相手が一つ増えたという話にとどまらない。ネット発の新顔が体験を前面に出して出店すると、来店客の期待水準が上がる。検査の待ち時間、接客の丁寧さ、店内の見せ方が比べられるからだ。まず、検査と販売の人員配置を見直したい。ピーク時に検査枠が足りず、売り逃していないかを予約データで確かめるとよい。次に在庫だ。店とネットで同じ在庫を共有できれば、店頭にない色を取り寄せて後日受け取る運用ができ、店に置く在庫数を抑えられる。

ブランド側が出店前に決めておくべき三つの指標

自社ブランドで店舗を考える企業は、出店の前に三つの数字を決めておきたい。一つ目は一店舗あたりの損益分岐点(=赤字と黒字の境目になる売上)。二つ目は店のある地域でのネット売上の伸び。三つ目は検査から購入に至る率だ。店舗の売上だけを見ると、ネットの注文が増えた効果を見落とし、店を過小評価してしまう。逆に、家賃と人件費を軽く見積もると、30店舗の計画は重荷になる。

取引先との関係は、先に線引きを伝えて守る

卸売を続けるなら、直営店の価格や限定品の方針を取引先に先に説明しておくことが大切だ。後から知らされると不信につながる。小売側も、取り扱うブランドが直営に力を入れ始めたら、独自の品ぞろえや調整サービスで差を付ける準備をしたい。まずは自店の強みを三つ書き出すことから始めるとよい。

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